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最高裁判所第一小法廷 昭和32年(オ)175号 判決 1960年4月14日

主文

原判決を破棄し、第一審判決を取消す。

被上告人らの請求を棄却する。

訴訟の総費用は被上告人らの負担とする。

理由

上告代理人桃井(略)の上告理由第一点について。

(一)本件約束手形二通はいずれも上告人が昭和二七年五月二九日株式会社近江屋商店商事部代表取締役名義を以て振出したものであること、そして他に反証がないから、右各手形はいずれも右株式会社近江屋商店が、その商事部名義で振出したものとみるべきであること、(二)右株式会社近江屋商店は、藤沢市辻堂一五三三番地に本店を有する株式会社近江屋洋服店が、昭和二七年四月三〇日その商号を変更したものであつて、上告人は同時に代表取締役に就任したものであること(ただし、本件各手形の振出および満期の当時はいまだその商号の変更ならびに代表取締役就任の事実は登記されておらず、その後同年九月一五日に至つて漸く登記されたものであること)、(三)被上告人らの先代折田兼精は、判示のような順序を経て右各手形の裏書譲渡を受けてその所持人となつたことは、原判決の確定するところである(これらの事実認定は挙示の証拠に照し首肯できる)。

右のような事実関係から観れば、株式会社近江屋商店は、本件各手形の振出、満期の当時並びに折田兼精がこれを取得した当時、いまだその商号の変更並びに代表取締役の氏名につき登記をしていなかつたとはいえ、株式会社近江屋洋服店と、その実質を同じくする会社として、現実に存在していたものとみるのが相当であり、また原判決もそのように認定したものと解される。しかも上告人はその代表取締役であつたというのであるから、本件各手形は、右実在する会社の代表者である上告人が、その代表権限に基いて振出したものとみるのが当然であつて、従つて右各手形を取得した折田兼精は、その当然の権利として右会社に対し、本件各手形上の責任を問うことを得ベき筋合であるといわなければならない。

しかるに原判決は、当時同会社はいまだ右商号の変更並びに代表者就任の事実を登記していなかつたし、また折田兼精も全然その事実を知らなかつたのであるから、上告人は右会社の存在を以て折田兼精に対抗することを得ない筋合であるとし、同会社が当然に負うべき前記各手形上の責任のほかに本来存在しようのない上告人の責任を肯定し、被上告人らの本訴請求を認容するに至つたのは、ひつきよう手形法八条および商法一二条の解釈適用を誤まつたものであるというべく、この誤りは原判決に影響を及ぼすこと明らかであるから、論旨はこの点において理由があり、原判決はその余の論旨に対する判断をまつまでもなく破棄を免れないものといわざるを得ない。

そして原審の確定した事実によれば、被上告人らの請求の失当であること前叙のとおり明らかであるから、これを認容した第一審判決をも取消し、被上告人らの本訴請求を棄却すべきものとする。

よつて、民訴四〇八条、三八六条、九六条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高木常七 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫)

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